No.0004 キュリオシティ 火星に降り立つ


 20111126日に打ち上げられたNASAの火星探査機マーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL)は、8か月と11日かけて火星に到達し、2012861432分(日本時間)に、火星探査車キュリオシティを、ゲールクレーターのシャープ山の麓に無事着陸させた。
 着陸地点のゲールクレーターは、火星に水があった時代に堆積物が重なってできたと考えられており、生命の痕跡がみつかるかもしれないと期待されている。


 キュリオシティは、長さが約3m、重さ約900kg6個の車輪を持ち、地球から命令を出すことで、火星表面を走る回ることができる。活動予定期間は約2年。その間に、着陸地点か
5500mほどの高さがあるシャープ山の中腹まで上って、水と生命の痕跡を探査することになっている。2年間も観測を続けることができるのは、プルトニウム238を利用した原子力電池が搭載されているからだ。
 キュリオシティには、動画を含む複数台のカメラ、土壌分析装置観測装置・気象観測装置などが搭載されている。キュリオシティは、着陸後、すぐに着陸地点の写真を地球に送ってきた。小さな石ころが散在した薄い赤茶色の火星の地面と遠くに見えるクレーターの丘陵が描くスカイライン、そして薄茶色の火星の空は、地球のどこかの風景に似ており、何か懐かしさを感じさせる。


 しかし、火星の環境は厳しい。気温は、氷点下100℃以下の超低温から最高で+20℃超。気圧は平均で7.5ヘクトパスカル(hPa)。これは、地球の海面上の気圧1013hPa135分の1で、地球上空68kmの気圧と同じだ。こんな薄い大気であるが、時として強風が吹き、砂ぼこりを巻き上げる。火星の砂嵐は、探査機が火星に行くはるか以前から、天体望遠鏡で観測され、よく知られていた。
 キュリオシティは、気象観測も行っており、そのデータは、NASAのサイトで公開されている。(http://cab.inta-csic.es/rems/marsweather.html
 たとえば、Sol10(火星日の10日目、地球時816日)のゲールクレータ付近は、最高気温-11℃、最低気温-71℃。気圧8.2hPa、湿度8%、北西の風25m/s。風の強い一日であった。火星の気象情報がわかると、火星が身近に感じられる。
 ちなみに、Solというのは、火星日、つまり火星の一日のことである。火星の一日は、地球時間で、24時間3935秒。地球の1日である24時間に近いので、将来、火星に移住することがあっても、あまり違和感なく暮らせるかもしれない。
 もう少し火星のデータを並べてみよう。重力は、地球の約3分の13.71m/s2。大気の組成は、大半が二酸化炭素で約95%を占める。その他は窒素・アルゴンなどで、酸素はわずか0.13パーセントしかない。この環境では人間が住むことはできないが、水のわずかにあることが確認されているので、原始的な生命は存在している可能性がある。

 1877年に、イタリアの天文学者スキアパレッリは、望遠鏡で火星を見てスケッチを描き、表面の模様が水路のように見えると発表した。同じ頃、アメリカの天文学者ローウェルも火星には運河があるという説を唱え、これらが元になって火星には運河をつくれるような知的レベルの高い火星人がいる、という俗説が広まっていった。これを題材にして、1898年、小説家H・G・ウェルズは火星人が地球に攻めてくるという小説『宇宙戦争』を発表した。そこに登場する火星人は、長い触手のような手足を持つタコ型の火星人だった。
さすがに、知性を持つタコ型火星人の存在は考えにくいが、火星には過去に水が大量にあったことから、なんらかの原始的な生命が存在する可能性はあると考えられている。もしも、キュリオシティが、火星に生命の痕跡、あるいは生きている生命体を発見すれば、地球以外の天体に初めて生命が発見されたことになり、人類史上に残る画期的な出来事となる。

 820日には、キュリオシティがロボットアームを伸ばしているところ、また21日には車輪を作動させている映像が発表された。本格的観測に向けた準備が着々と進んでいる