No.0003 ヒッグス粒子 ついに発見か!?



 74日、欧州合同原子核研究所(CERN)は、素粒子の標準理論から予測されていた未発見の粒子であるヒッグス粒子らしき粒子が発見されたと発表した。
 日本の科学者も参加しているATLASと欧米中心のCMS2つの研究チームが、ジュネーブにあるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使って、ほぼ光速まで加速した陽子どうしを衝突させ、そこから出てくる多数の粒子を解析し、ヒッグス粒子である確率が999.99998(ATLASチーム)という痕跡を発見したというのだ。
 ヒッグス粒子。これは一体なんなのか?

 素粒子物理学は、物質の根源となる物質を探索する学問で、20世紀に大きく発達した。素粒子が何をさすかは時代によって変わっていった。原子は原子核と電子からできていて、原子核は陽子と中性子からできている。ここまでは、なんとかイメージできる「粒子」だが、現在、陽子と中性子はさらに小さなクォークからできていることがわかっている。

 標準理論とは、素粒子物理学が20世紀後半に構築した、物質を構成する最小ユニットに関する理論である。標準模型とか標準モデルとも呼ばれる。かなり難しい理論なのだが、ざっくり言うと、物質を構成する基本粒子として、6種類のクォーク(アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム)と6種類のレプトン(電子ニュートリノ、電子、ミューニュートリノ、ミュー粒子、タウニュートリノ、タウ粒子)、光子、ウィークボゾン、グルーオン、それと、今回発見されたとされるヒッグス粒子があるとする理論だ。
 ただ、ヒッグス粒子の存在だけが確認されていなかったため、今回発見された粒子がもしもほんとにヒッグス粒子だとしたら、世紀の大発見ということになる。

 とは言ってもである。標準理論といっても、これは原理でも公理でもない。20世紀の素粒子物理学の成果のひとつであるというだけで(もちろんすごいことだが)、新しい発見はさらに新しい発見を呼ぶ。素粒子は、標準理論で掲げられている15種類(正確に言うと、ウィークボソンにもグルーオンにもいくつかのバリエーションがある)だけではない。今後、新たな素粒子がみつかる可能性もある。そもそも、標準理論には、重力を伝えるとする重力子(グラビトン)が組み込まれていない。

 今回発見された粒子がヒッグス粒子であるとすれば、素粒子物理学は次のステージに入るということで、大きな意味を持つ。
 ところで、ヒッグス粒子っていったい何? ってことをざっくり説明しておこう。先ほど基本粒子には15種類あると書いたが、大きく2種類に分類できる。クォークとレプトンは物質を形作る粒子、そのほかの粒子は、力を媒介する粒子だ。力を媒介。これがなかなかわかりにくいのだが、ミクロの世界は、われわれが経験している物質の世界とはかなり違う。素粒子がなんらかのエネルギーとして存在を主張するときには、素粒子と素粒子がなんらかの物質のキャッチボールをしているのである。たとえば、陽子や中性子は3個のクォークからできているが、クォークどうしを強く結びつけているのが、グルーオンである。また、電磁気(電気や電磁波としておなじみですね)は、光子が媒介している。ウィークボソンは、原子核に働く弱い相互作用に関係する力だ。
 そして、ヒッグス粒子であるが、これは素粒子に質量を与える粒子である。ミクロの世界の真空の空間には、ヒッグス粒子がぎっしりと並んでいて、他の素粒子が動くのをじゃまする。このじゃまされる度合いによって素粒子の質量が生まれるとされている。ただ光子だけは、ヒッグス粒子に邪魔されない。なので、質量0で光速で飛びまわることができるというわけだ。
 ヒッグスという名称は、1964年にヒッグス理論を提唱した英国の物理学者ピーター・ヒッグスにちなんだものだ。素粒子物理には、難しそうな横文字がたくさん出てくるが、みんな外国人の人名や造語に近いものなので、そのまま覚えておけばいい。
しかし、われわれの周りの空間にも宇宙にも、ヒッグス粒子がびっしり詰まっているといわれると、心なしか息苦しく感じるが、実は、粒子というわけでなはい。ある特定の状態のエネルギーの場(フィールド)なのだ。だからヒッグス粒子のあるところをヒッグス場とも言う。
 ヒッグス粒子の存在が確定すれば、標準理論が正しいことが証明されたことになり、同時にビッグバン宇宙論の理論も肯定される。しかし、もしもヒッグス粒子が存在しなかったとすると、素粒子物理は、1からやり直し、ということになる。
 いや、それどころか、現在計画中の電子と反電子(陽電子)をぶつける国際リニアコライダー(ILC)が稼動すれば、さらに新しい未知の粒子がみつかるだろう。
根源物質探求の旅は永遠に続くのではないだろうか。
 理論の完成?
 それは永遠にないかもしれない。